はじめに
カラムクロマトグラフィーを実施する際、移動相の流速に悩む方もいると思います。
「遅いほうがカラムと化合物が長く接するから上手く分かれそう……」
「速いほうが短時間で終わるから楽かな……」
といった考えを持ったことのある人もいるでしょう。
結論から言うと、遅いより速いほうが良いです。
分離と流速の関係
理論段高さと理論段数
カラムクロマトグラフィーの分離性能を評価する指標の一つに、理論段数というものがあり、大きい値ほど優秀なカラムと判断することができます。
同じ長さのカラムであっても、移動相流速などの条件によって理論段数は変わります。
カラムの長さを一定とすると、
理論段数=カラム長さ/理論段高さ
となるので、理論段高さが低いほど、分離性が良くなり、良いカラムといえます。
van Deemterの式
カラムにおける移動相流速と理論段高さの関係は、下記のvan Deemter(ファン・デームテル)の式で表されます。
\(H=A+\displaystyle\frac{B}{v}+Cv\)
\(H\):理論段高さ \(v\):線速度 \(A, B, C\):定数
※流速の単位はmL/min、線速度の単位はcm/minで表すことが多いです。カラムの直径から変換できます。
ここで、\(A\)は物質の進む経路、\(B\)は分子の拡散、\(C\)は固定相と移動相間の物質の平衡により決まる定数ですが、ここでは説明は割愛します。
重要なのは、理論段高さ\(H\)が線速度\(v\)の関数であるということです。
van Deemterの式をグラフとすると、下図のようになります。
シリカゲルカラムクロマトグラフィーでは、\(H\)が最小となる\(v=\sqrt{\displaystyle\frac{B}{C}}\)とすることが理想ですが、シリカゲルの粒径や形状を把握しなければわからない値なので、現実的には難しいでしょう。
そのため、できるだけ小さい\(H\)を目指すのが次善策となります。
\(\displaystyle\frac{B}{v}\)は反比例なので、線速度を極端に遅くすると\(H\)が非常に大きくなります。
一方で、\(Cv\)は一次関数なので、線速度を極端に速くしても、遅くするよりは\(H\)の増大は緩やかです。
このことから、流速は遅いより速いほうが良い、ということになります。
おわりに
以上、カラムクロマトグラフィーにおける流速についてでした。
どのシリカゲルを使うかによっても、最適な線速度は変わってきます。
ご自身の実験環境に合う流速を探しておくと、快適に分離できると思います。
以上、参考になれば幸いです。
カラムクロマトグラフィーにおけるシリカゲル高さは、こちらのページで紹介しています。併せてご参照ください。
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