危険物取扱者の注意点等を前回の記事で紹介しました。今回の記事は、その危険物取扱者における物理・化学に含まれる「ヘスの法則」について、原理・なぜ便利なのか、といったことを紹介していきます。
ヘスの法則とは?
ヘスの法則とは、ある化学種が化学変化を起こす際に、スタートとゴールの化学種が同じであれば、どのような経路を通っても、発熱・吸熱するトータルの熱量は同じとなる、という法則です。
言葉だけだとわかりにくいので、実際に黒鉛の燃焼の例を示してみます。
1molの黒鉛が燃焼して二酸化炭素となるとき、394kJの熱が生じます。また、1molの一酸化炭素が燃焼すると、283kJの熱が生じます。ヘスの法則では、スタートが黒鉛、ゴールが二酸化炭素であれば、どのような経路で反応が進んでも総エネルギーは同じなので、黒煙が燃焼して一酸化炭素を生成する際のエネルギーは、
$\ce{394kJ/mol}-\ce{283kJ/mol} = \ce{111kJ/mol}$
と求められます。科学ではエネルギー保存則というのがありますが、ヘスの法則もその保存則を示しています。
さて、ヘスの法則の原理は上記のとおりですが、上記の例において、「そもそも、黒鉛の燃焼で一酸化炭素を与える際のエネルギー導出に、何故ヘスの法則を使うのか?」という疑問があります。その答えとしては、
黒鉛の燃焼で、一酸化炭素のみを生成するのは不可能だから
となります。
酸素が不足した状況で黒鉛が燃えるとき、不完全燃焼をすることによって一酸化炭素が生成しますが、黒鉛を燃やすと二酸化炭素が生成すると一般にいわれるように、物質が燃える際にはより安定な物質まで進もうとするので、どうしても二酸化炭素も生成してしまいます。そのため、黒鉛が完璧に不完全燃焼をする際のエネルギーは測定することができません。
一方で、純粋な一酸化炭素は合成することができます。ギ酸$(\ce{HCOOH})$と濃硫酸$(\ce{H2SO4})$を反応させると、
$\ce{HCOOH} \ce{->C[H2SO4]} \ce{CO}+ \ce{H2O}$
という脱水反応が起き、一酸化炭素を得られます。この一酸化炭素を用いれば、一酸化炭素の完全燃焼時のエネルギー$\ce{283kJ/mol}$を導き出せるというわけです。
以上、黒鉛を完全燃焼させて二酸化炭素を生成する際の熱量と、純粋な一酸化炭素を完全燃焼させて二酸化炭素を生成する際の熱量を用い、ヘスの法則を適用する話でした。
危険物取扱者の勉強の助けになれば幸いです。
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